黒い媚薬

 本日の講座は江戸時代の肉食について。事典類に「小毒」があるとか、食べても「益」なしと書かれているからといって、鵜呑みにしてはいけない。むしろ、食べていたからこそ、また、食べようとする者がいたからこそ、それを止めるように促す文言が記されているとみたほうがよいだろう。1643年(寛永20)刊の『料理物語』にも鳥獣のレシピが紹介されているし、1697年(元禄10)刊の『本朝食鑑』にいたっては、いちばん美味しい肉は牛だと記している。たとえば黒焼にしてみても(乱暴にいえば)ジビエのようなものだから、れっきとした肉食なのではないのか。
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 かつて『摂津名所図会』巻4に載る高津の黒焼屋について原稿を書いたことがある。当時、黒焼というものを知らず、川端御池の平井常栄堂薬房まで確かめに行き、ギョッとした。いまでもあすこの前を通るときは、少し緊張する。夜はさらなり。
 ところで、高津の黒焼屋の絵には数人の女性が描かれている。今日の講座でもそれを紹介したのだが、イモリの黒焼を買いにきたのでは、とのご指摘があった。たぶんそうでしょうね、と答えておいた。黒い媚薬を誰に使うつもりなのか。こうした絵師の遊びごころを探るのも、絵を読む楽しみのひとつである。