笑われる

 講座や講演で、社会人の方々を前にお話しをするときに心がけていることがある。それは1度でもいいから、クスリとかニヤリでもいいから、笑いを誘うこと。たいていはこちらの空気を察知して笑ってくださっているとは思うのだけれど、俄然、喋りやすい雰囲気になる。
 ところが、学生を前にするとこれがなかなか難しい。向こうがシャイなのと、年齢的な温度差もあって、笑いに結びつかない。不惑もみえてきているのだから仕方のないことか。
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 『都名所図会』、『拾遺都名所図会』ともに、巻1の冒頭を内裏や内裏に関係のある事物が占めている。先週から講義でその話しをしているのだが、江戸時代の御所と現在の京都御苑との対比をしつつ、ちょっとしたエピソードをはさんでみた。ことのほかウケたので気分がよくなり、ついつい話しが長びいてしまう。
 中学、高校生の頃、冬になるといつも決まって御所の周囲を走らされた。耐寒マラソンというやつだ。ルートは2通りあって、御苑周囲の「外御所」、御所周囲の「内御所」とそれぞれ名づけられていた。もちろん、距離の面からみれば「外御所」のほうが嫌な感じがするのだが、過酷さでいえば砂利敷きの「内御所」のほうが俄然キツいのだ。成長期の足腰を痛めつけてどうすると、憤慨したものである。
 「恨みつらみの内御所…」のところでクスクスっと(大学の講義では初めて!)学生が笑った。そんなどうでもいいことで笑われてどうする、とも思うが、ともあれいつになく和んだ雰囲気だったので、まことに心地よろし。