手術の痕

 家人がブルゾンに鍵裂きをつくってはや数年。ながらく放置されていたそれを、思いつきで修理する。
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 ミシンは便利だが、相性が悪いとそれまで。なかなかいうことをきいてくれない。その点、手作業はこちらのペースを保てるから楽。
 周囲が就職活動に励んでいる4回生の頃、大学院への進学を決めていたために暇をもてあましていた時期がある。それを利用し、およそ1年、和裁を習うことにする。伯母たちや実母も学んだという和裁塾の使用単位は尺貫法で、随分と苦労した。ただ、ちくちくと、ひたすらちくちくとやる地味な作業は肌にあい、最初の課題である浴衣が完成したときはかつてない充実感を味わうことができた。
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 鍵裂きをちくちくと繕っている傍らで、「外科手術みたい」と家人。あとはこの手術痕のあるブルゾンを洗って、衣替え終了。