神々妙々

 1813年(文化10)に出版された『女子愛敬 都風俗化粧伝』をみると、「色を白くし、顔の光沢(つや)を出だし、皺をのし、一生年寄りて見えざる手術の法」という項目がある。いわく、

まず、両手の掌(ひら)を合わせ、数十遍すり、掌(たなごころ)合わせば、手の掌(うち)おのずから熱出でてあつくなりたる時、手の掌にて額をよくよく摩でこすり、それより鼻の両わき、また、頬、口の辺り、その形の高き低きにしたがい、幾(なん)十度もよくなでさすり、そののち、両目の瞼をなで、耳の両わきをよくよくすりなずるなり。
(中略)
この法五年絶えず行なえば、顔貌(かお)の色形、少女(むすめ)のごとくになり、誠に老いをかえして嫩(わかやか)にする神妙の伝にして、しかもこの法容易(たやすう)してその験(しるし)の大なること、神々妙々功ある秘訣也。

 この方法、いまだ実践している人がいそうである。いわゆるリンパの流れをよくするとかいう美顔マッサージの元ネタだったりするのだろうか。鉛入りの白粉を使えだの、米のとぎ汁を塗ったまま寝ろだのという無茶に比すれば、至極真っ当な美容法といえそうだ。
 それにしても、この書の本文が「大小便をこらゆる伝」で終わっていて、その方法が「左の手の掌へ、右の手の高指にて、大便ならば大の字、小べんならば小の字をかき、三度ねぶるべし」というのは如何なものか。
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 すさまじきもの。婦女子の容色麗しうせんと励みたるさま。