学内学会

 毎年この時期に開催されるので仕方のないことだが、やはり雨。数年前には台風とぶつかることもあって、それよりは遥かにましだとは思うのだけれど、やはり雨。
 学会と同時開催の特別講演は、源氏物語千年紀に沿った内容でありながらも出版文化史的な視座が含まれていて、非常に興味深く拝聴する。というのも、この春に担当した社会人講座のテーマと相当に重なっていたからだ。
 あまたに出版されている「名所図会」類であるが、『源氏物語』の内容をそのまま挿図に採用しているのは『摂津名所図会』巻8の須磨浦のみで、他の地域には登場しない。その理由として、作品の舞台のほとんどが京都とその周辺地域であることがあげられるだろう。京都の場合、「などころ(=歌枕)」に恵まれ、また「めいしょ(=観光的意味を帯びたもの)」も豊富にある。こうした土地では収載する項目にことかかない。しかしそれ以外の郊外地域になるとはなしは変わってくる。その打開策として、埋め草に故事や説話などが利用されることはしばしばある。おそらく『源氏物語』もそうした素材のひとつとして採用されたのだろう、そう考えていた。
 今日の講演では、実はそれほど単純化されるようなものではなく、むしろ和歌と絵画の関係性で考えるべきであろうと指摘されていた。相互がコンテクストとして機能しつつ、それぞれの読みを補強するような関係性。だとすれば、郊外地域にある数少ない「などころ」を、読者により強く認識させるために『源氏物語』が活用されたとみることができるだろう。他の故事、説話に比較してみても、これほど強力な素材はなかったはずである。
 まだまだ考えを整理する必要があるだろうが、今後の研究につながるような示唆に富む講演内容だったと思う。清水婦久子先生に大感謝、である。