近世写本

 昨日は京都近世小説研究会に出席するため、今出川まで出かける。2本のうち、後半の土居文人先生のご発表は、自身の主たる研究対象=名所図会にもつながる内容で、興味深く拝聴した。
 近世期に成立した京都の地誌は、中期以前の古版地誌類と後期の名所図会を中心とした図会類などに大別されている(厳密な分類は山近博義「近世名所案内記類の特性に関する覚書―「京都もの」を中心に―」に詳しい)。ただし、このような分類は出版された書物を対象としており、写本を含めたものではない。たとえば昨日の発表で取りあげられた北村季吟『莵藝泥赴』は写本として伝わっており、翻刻本はなく、影印が『新修京都叢書』に載るのみである。なお、そもそも底本にすべき伝本の検証も不十分なままであったと、『新修京都叢書』の改題に野間光辰は記している。問題を多く抱えるテクストではあるが、名所図会など後世の地誌への影響関係を考えると、今後の研究成果に期待するところは大きい。
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 写本(とくに近世期)の知識に乏しいという「弱点」(他にもいろいろあるのだが…)をあらためて思い知る。このようなことでは師が残された仕事を引き継ぐことなど、到底無理である。精進あるのみ。