学は楽し

 昨夜、家人といっしょに、中野三敏先生が出演された番組を観た。
 師がお元気だった頃、学会でご挨拶なさっているようすを傍で拝見したことがある。たしか、師はご定年の直後、先生は紫綬褒章を受章された直後だったように記憶している。
 神田の古書店で版本を手に取りながらさまざまなお話しをなさっている先生に、ふと師のすがたが重なった。
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 大学院の講義では、某寺院の蔵書調査をおこなっていた。「順番は気にせず、あなたたちの気になる本を持ってきなさい」といわれ、数冊を選び、お渡しする。師はパラパラと頁を繰りながら、その書物の内容や由緒・出版書肆についての情報をすらすらと解説される。1時間30分の講義中に2、3冊しか調書が取れないこともあったが、お話しを聞くのが楽しくてしかたがなかった。
 師の場合、興がのりはじめると笑いながら話しをなさった。そのため、話しの内容を聞き取るのにコツが必要で、慣れないうちはヒアリングに労を要した。理解できるようになると、その思考・発想に魅せられた。
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 先生の場合、明瞭な語りのため、コツがなくとも理解しやすい。笑い声の混じるタイミングも、師とは異なる。ただ、版本を繰りながら解説し、それを自身がいちばんに楽しんでおられる(ように自分には映った)ようすが、とにかくそっくりだった。家人の感想も同様で、似ていると感じたらしい。
 「楽しみながらでないと、研究は続かない」という師のことばの意味が、なんとなくわかったような気がした、木曜日の夜。