イロの道

 過日の広嶋進先生の講演を拝聴し、考えたことなどを。
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 まずは宮藤官九郎の「真夜中の弥次さん喜多さん」を枕にふりつつ、江戸時代の男色、女色、婚姻の位置づけを解説される。なかにはBL(やおい)や男の娘を好む学生も少なからずいるであろうから、掴みとして最適だったのではなかろうか。
 近代になり、ヘテロセクシャルかつロマンティック・ラヴにもとづく恋愛/結婚観が形成されていく過程においてプロテスタンティズムの影響があったことを、明治女学校の存在や厨川白村『近代の恋愛観』などを紹介しながらまとめられた。さらに、『懐硯』巻一ノ五の「人の花散る疱瘡の山」を取りあげながら、男性と男性のあいだで交わされる「念契」のあり方を説かれる。こうした精神性をともなったホモソーシャル的情交は、女性との関係よりも上位に置かれたのだという。
 最後の『春琴抄』への影響に関する仮説は、「梅」/「鶯」というモチーフなどみても充分にあり得るのではないかと、個人的に感じた。
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 これまで挿絵という切り口から考察することはあったものの、いわゆる好色物については詳細に検討する機会がなかった。ゆえに、セクシャリティに関わる問題を扱うことの面白さを垣間見た気がする。ただし、今回の内容は近代文学研究の補助線として近世期の文化が有効であることを意味するものであり、近世文学研究の可能性を探るものではなかった(ように思う)。むしろ近世期の文化が積極的に近代へとつながっていく問題系にこそ惹かれる。たとえば「歴史観」とか「伝統」とか。
 だから「名所図会」が面白い、などと、手前味噌なことを考える、日曜日の夜。