賞味期限

 相当むかしの話し、某百貨店の進物売り場で働いていたことがある。身分的にはいわゆるマネキンというやつで、学業とかけ持ちでやるにはなかなかの高収入であった。もしかしたら、いまより裕福だったかも知れない。派遣先のメーカーはなぜか人の入れ替わりが激しく、仕入れから棚卸しまで、正社員並みに働いていた時期もあった。
 そこで扱っていた商品は佃煮で、製造年月日と賞味期間が記入されたシールが貼られていて、だいたい3ヶ月くらいもつよう設定されていた。売る方としてはなるべく残さずに、古い方からさばいていきたい。が、買う方としては、賞味期間を越えていなくても製造から1ヶ月も経った商品を先方に送るには気がひける。よって、当時、商品の日付を確認する客が絶えなかったと記憶している。
 ところが、ある日を境に、賞味期限だけを記すようになった。1995年にJAS法が変更されたためで、それ以降、製造年月日を表示する義務がなくなった。売る方としては在庫管理が楽になってよかったが、消費者にとっては微妙な「事件」だったといまでも思う。なにせ、いつ作ったかわからないものを買うことになるのだから。
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 冷蔵庫に放置されしクリームチーズ、やうやう賞味期限をむかえなんとす。さればとて、久方ぶりにチーズケーキをば焼けり。加工せしものの賞味いたす期限や如何ならんと、しばし逡巡せり。