ヘイ家紋

 生まれて初めて着た和装の喪服。漆黒のなかに浮かぶ紋が、着る人のアイデンティティをあらわす記号のようで面白い。
 以前から気にかかっていることのひとつに、家紋の問題がある。『都名所図会』と『拾遺都名所図会』の挿絵のなかにしばしば登場する丸に隅立て四つ目の紋。おそらく近江国佐々木氏系統との関連があると思われるのだが、それだけにとどまらない何かがありそうである。登場する頻度からすれば、著者か、版元か、あるいは出版資金の提供者といった、制作に関わった人物のものである可能性も考えられよう。
 ちなみに件の喪服には桔梗の紋が施されていた。が、家固有のものではなく、いわゆるオールマイティな意匠として使用していただけのようである。