イケナミ

 誕生日。この年齢にもなると、なかなか欲しいものが思い浮かばない。だったら美味いものでもということで、西陣にある蕎麦屋にこらに行くことにする。少し前ならば、やれイタリアンだやれフレンチだと騒いでいたのだろうが、もはや胃が受けつけそうもない。歳をとるとはこういうことなのだろう。
 予約を入れ、開店とともに席に着く。一番のりだ。しばらくすると、団塊世代くらいのご夫婦が来店、隣席に着かれた。料理が運ばれるたびにご婦人がデジタルカメラで料理を撮影しておられる姿を見て、ふと思う。これは「池波系」の人たちなのではないか、と。
 友人しまこ氏いわく、珈琲や蕎麦といったとにかく雑誌「サライ」に特集されそうなものに対してこだわりのある方々を「池波系」と呼ぶらしい(もちろんこの「池波」とは池波正太郎のことである)。確かにこの店、そうした「通」(自称も含む)が好みそうなテイストを備えている。注文の仕方といい、ふるまいといい、このご夫婦もお仲間のようである。
 そもそもこうした店では腹八分目で済ますのが「通」のマナーであろう。隣席も、「池波系」らしくそこそこの配分で帰っていかれた。が、こちらはというと、腹十二分目、これでもかというほどに堪能した。店主もきっと「池波系」だろうから、カウンターの向こうから「わかってないっ!」と怒っておられたやもしれない。残さず平らげたので、とりあえずは許していただけるかな。

 ちなみに、天ぷらの盛り合わせは画像を失念していたので、計8品いただいたことになる。