普通+文
今期担当の留学生に、「戦前の、明治時代後半あたりの日本について知りたい」というドイツ人がいる。交換留学生として史学科で学んでいるらしいのだが、「普通文について学びたいのに、先生方には(用語レベルで)理解してもらえなかった」という。よく聞いてみると、相談した先生が中世史の専門だったというのだから仕方がないことなのかもしれない。
普通文とは、文語体から言文一致体へと変遷していく時期に使用されていた文章を指すとされている。その範囲は曖昧なところも多く、大町桂月は「この紛々の間に、普通文といふ、漢文くづし文でもない、和文体でもない、さうかと言ってまた西洋直訳体でもない、一種の文体が出て来た」といい、原敬は「先生(福澤諭吉)は、この漢文体を充分に日本化し、明治時代における標準的日本文とも謂ふべき文体を創作された」という。さらに、『作文講話及び文範』は「普通文」を「実用文」と定義したうえで、本居宣長、三浦梅園、柳澤淇園らの和文も「普通文」だとしている(三浦勝也「普通文と時文」)。江戸時代後期から明治時代(あるいは大正時代)あたりが対象であるということは、つまり、普通文とは日本の近代化と密な関係をもつ文体だといえる。
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