ある書肆

 1839年天保10)刊の『貞経』はいわゆる女訓書である。著者は八島五岳で、既婚女性のあるべき姿を説いている。江戸時代版『女性の品格』といったところか。こうした本は安定した需要があったので、版権を持つ某書肆は相当の財を築いたと推察される。
 この某書肆、もとは「京都東高瀬富濱町」にあったが、のちに「麩屋町姉小路上る中白山町」に移居している。蔵版目録をみると国学系統の書籍を多く扱っており、また、名所図会類の出版もおこなっていたようだ。
 1855年安政2)に家督を継いだ当主は、1863年文久3)六角獄舎に投獄され、1864年(元治元)禁門の変の際、幕吏によって斬殺されている。享年31歳、のちに贈従五位
 京都における幕末期の出版状況を考えるうえで、非常に興味深い存在である。