小説、怖い
まったく読まないというわけではない。けれども、小説があまり好きではない。
かつてはよく読んでいた気もする。小学生のころは江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが好きで、図書室で借りては気に入ったものを購入(=収集)していた。中学生のころはコバルト文庫の黄金時代で、周囲が勧めるままに読まされていた。新井素子と氷室冴子が二大巨頭で、どちらかというと後者を好んだ。高校生のころはこれまた周囲でグイン・サーガがもてはやされていたので、その流れに逆らわずに読んだ。ただし、読書スピードの遅さから、早々に戦線を離脱する。登場人物の名前が覚えられなかったのも原因のひとつだ。浪人生のころは世界史を選択していたからか(?)、外国人作家にはまる。コナン・ドイルを皮切りに、アーネスト・ヘミングウェイやジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズあたりを読みあさった。なんだか節操がない選書だ。大学以後、(作家の)見た目買いで、島田雅彦、いとうせいこう、町田康あたりを集めたりもした。つくづく偏っている。
こうしてみると、日本近現代文学の主要な作家はほとんど読んでいない(!)ことがわかる。かなりひどい。唯一、『舞姫』だけは熟読した。いや、させられた。高校2年か3年の2学期、国語のテキストがこれだった。中身はもちろんのこと、さまざまなコンテクストに至るまで教えられた。振り返ってみると、まるで大学のゼミみたいな授業だったように思う。
このままではいけないと思い立ち、ここ数年はなるべく読むように努めている。そんななか、谷崎潤一郎はなかなか具合がいい。谷崎というと『痴人の愛』や『春琴抄』ということになりそうだが、『吉野葛』や『蘆刈』あたりがいい。紀行文なんだか小説なんだかいまいちはっきりとせず、それでもちゃんと物語が進んでいくところがおもしろい。『蘆刈』では土地に明るくない主人公が「名所図会」によって地理情報を得るといった記述もあり、とても興味深い。ちょうどいま住んでいるあたりの地名が頻出するのも楽しい。
- 作者: 谷崎潤一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/06/01
- メディア: 文庫
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