暦のこと

 数日前から、多くの神社では茅の輪が飾られ、夏越の祓のための準備をされていたことだろう。以前に住んでいた壬生界隈の梛ノ宮神社も多分に漏れず、6月最後の日には参詣してお札と粟餅を頂いていたものだ。これが終わると京都の中心街はいっきに祇園祭のムードに包まれていく。
 ところが、いま住んでいる伏見では事情が少し異なる。この付近の産土神社である御香宮神社(ご近所の三栖神社も)では夏越の祓が7月末の行事として行われているのだ。このような相違が生じる原因は単純で、前者は旧暦の日付のまま動かしてしておらず、後者は新暦に日付をずらしてあるから、ということになる。
 この新暦と旧暦の違いは意外に重要だと思う。例えば葵祭(名称もかつては賀茂の祭だった)。旧暦では「卯月の中の酉」の日に行われていたもので、4月の祭礼行事である。新暦では5月15日に固定されているので、おおよそ1ヶ月のずれがあることになる。けれども、このずれにはさまれた5月5日の行事はその日程でなければ意味がない(=五節句)ため、旧暦の日付のままにしてある。そうすると、旧暦では上賀茂神社競馬会神事葵祭の後であったのが、新暦の場合にはそれよりも前に行われてしまうことになる。祇園祭も同様で、本来はこの祭の後に夏越の祓が行われることに意味があったはずなのである。
 最近では干支を答えることができない大学生が増えていると聞く。そのような状況で、月齢と旧暦の関係や、新暦採用による祭礼行事への影響などは理解されないと考えたほうが懸命なのだろう。一般常識(だと思い込んでいるもの)は、日々、更新されていく。「十五夜お月さん」も、もう通じないと思ったほうがよさそうだ。